幼い頃から自転車が好きだった。小学校へ上がる前,初めて乗ることができた時のあの感動。幼いながら「これでどこへでも行くことができる!」と思っていたあの気持ちは今でも色あせていない。中学生に上がると当時どうしても欲しかったMTBを買ってもらい, 部活のない休日には往復50キロの道を走って釣りに出かけたり,海や山まで走ったりする日々が続いた。

とはいえ,高校時代までは日帰りで100キロくらい走るのがいいところで,一泊以上のツーリングをしたことなどなかった。当時は,キャンプ(もしくは宿泊り)をしながら自転車で,一人で,何泊もするような旅に出るようになるとは思ってもいなかったし,出たいという気持ち自体が起こらなかった。時折,テレビや新聞で自転車日本一周の特集を見かけることもあったが,「すごいなあ」とは思いながらも,その気持ちは,どこかに「よくやるなぁ」という思いが混ざっていた気がする。

自転車旅行を始めるようになったきっかけは,大学でアウトドア系のサークルに入り,そこでの合宿(キャンプ)と友人のLATEOが乗っていたMTB。近くに詳しい人がいれば,自ずと興味は増すもの。しかし初めはマウンテンバイクに乗りたいと思いながらも,いざ買うのにはどこかためらいがあった。一人旅をしたいと思いながらも,果たして自分にできるのかという不安があった。結局,大学1年の間はシティサイクルに乗って近場を走り回る程度で,スポーツ車にまで手を出すことはなかった。

ところが2000年春,大学2年になると無性にマウンテンバイクを買いたい方向に気持ちが向かった。とはいえ,そのときは「乗りたい」という思いが先走るだけで,スポーツ車についての知識は当然ゼロ。そこで友人に聞いたり自分で雑誌などを読み漁り,予算と相談して決めたのは入門クラス,5万円程度のMTB。そうと決まれば実物を見に行こう!早速市内の店で色々な自転車を見ることにした。

しかし実物やカタログを見たり,店員さんから話を聞くうちに,当初の予定が崩れ始める。5万前後のマウンテンバイクというのは各メーカーとも入門モデルであり,その中で自分好みの自転車を選ぼうとしても選択肢はあまり多くない。高価格帯のものを見てみると,より自分好みで魅力的な自転車が多くなる。悩みに悩んだ結果,当初の予算の倍であるSCHWINN社の「MOAB2」という自転車を購入した。

当時の私としてはギリギリ買えるという値段。しかし,本当に欲しい物に関しては「できる限り妥協したくない」という考えの自分にとって,この選択に後悔はない。そして,近場で日帰りツーリングを何度かした後,その夏に長崎方面へ3泊4日,秋には東北と関東地方へ1週間の自転車一人旅。しかし,当時は自転車旅行をしても「一人で自由気ままに走れることが幸せ」という気持ちになるだけで,「出逢い」の素晴らしさを感じてはいなかった気がする。

それを知ったのは2001年の春。旅の期間も2週間超となり,時間的な面でも厚みを増した沖縄旅行で,physalisさんをはじめとする多くの出逢いがあった。その後は毎年のように,各地で自転車旅行を満喫し続けている。

目的地へ行くことが最優先である旅行ならば,何も自転車に乗ることはない。目的地までの何気ない景色や,ちょっと立ち止まった先における地元の人・旅人との会話などは,車やバイク,列車などでも十分に楽しむことができる。しかし,それらの交通手段より移動速度が遅く,いつでもどこでも立ち止まることができる自転車は,徒歩ほどではないにしても,その場の風を肌で感じることが可能だ。そんな自転車に乗って旅をしてみると,車やバイクなどでは見落としがちな「何か」を感じることができるような気がする。

雨や風の強い日には泣きたくなったりするかもしれないし,長い坂道や峠道,いつまでも続くアップダウン等には心身共に疲れ果て,ペダルを漕ぐのをやめたくなるかもしれない。しかし,そうやって走り,過ごした時間,出逢った人,見た物すべてはきっと記憶に残り,素晴らしい思い出となるはず。また,

「自分の足,自分の力で走った」

ということは揺るがない事実であり,自信や満足感にもつながる。のんびりとした旅ができる自転車,バイクや車とはまた違った「風」を感じることのできる自転車,体を使い,体で全てを感じることのできる自転車,そんな自転車に乗ってこれからも旅を続けたい。

また,2003〜2004年度には,学部時代とは別のキャンパスにある大学院に通うようになり,片道15km弱の自転車通学もしていた。最初はさすがに「続くかな?」と思うこともあったが,それは杞憂にすぎなかった。むしろ,それくらいの距離を走っていると色々考える時間もできるわけで,研究に悩んでいる時期はちょうどいい気分転換になったり,体が熱くなるにしたがって気持ち的にも高揚し,学校に着く頃にはハイテンションになったり。結局,2年間で自転車通学をしなかった日は数える程しかなく,つらいと思うことも全くといっていいほどなかった。

初めは「非」日常の世界を体験できると思っていた自転車旅行だが,繰り返すうちに,そんな旅の間も私や姫の中では「日常」と同じ時間が流れるようになった。旅行と銘打たなくとも自転車に乗ったときの快感は変わらない。自転車に乗れば,(たまには違うときもあるけど)いつでも心地よい汗が流れる。また,良くも悪くも,自転車を取り巻く環境に対する問題についていつでも(これは本当にいつでも!)考えてしまう。

時折,「自転車は疲れる」「汗掻くから嫌」「スピードが出ないから移動時間の無駄」といったことを耳にする。でも,運動をしているんだから汗を掻くのは当たり前だし,そんなにセカセカする必要なんてあるのだろうか?自転車が疲れると感じるのは,タイヤの空気圧が低いか,サドルが低すぎる場合がほとんど。

空気圧が低ければ,乗り心地こそソフトだがスピードは出ないし,パンクもしやすい。両足が地面にペッタリつくようなサドル高さで自転車をこぐのは,膝を半分曲げた状態で歩き続けるのと同じくらい無駄な動きをしているということ。どんな自転車だって(1万円を切るようなディスカウント自転車の類は別にして),10km 20kmは平気でこぐことができる。 次の晴れた休日にでも,指で押してもタイヤが凹まない位に空気を入れて,つま先がやっと地面に付く程度までサドルを上げて,近くを走ってみませんか?

上記文章は,2001年のWebsite立ち上げ時に初稿,その後就職したての2005年に一部を加筆。就職などを機に,それまでの趣味を止めてしまう人もいるが,私は自転車旅行の回数こそ減ったものの,相変わらずの自転車生活を満喫している。自転車は2006年に折り畳み第一号(BD-FROG),2011年に第二号(KHS F20)を買い,2012年にCannondale MTBの27インチ+ディスクブレーキ化,2014年にはドイツでシクロクロス(MARIN Lombard)購入。自転車に乗らないと気分がのらず,自転車に乗ればその日の嫌なことも前向きに昇華できず,そんな毎日は変わっていない(2014/11/23追記)。